チャプター 4
先ほどウェインとビアンカを尋問したときの厳しい口調に比べ、エミリーに対するチャールズの態度は目に見えて穏やかなものだった。
エミリーは安堵の溜息をついた。
これほど力強い味方がいてくれれば、今も囚われの身で苦しんでいる女性たちが救出される可能性は格段に高まるはずだ。
エミリーは乾いた唇を濡らし、目の前に立つパリッとした制服姿の男性を見つめた。その瞳には、より深い尊敬の念が込められていた。
出会ってからまだ日は浅いが、彼から滲み出る正義感は、エミリーが全幅の信頼を寄せるのに十分なものだった。
「ハワード捜査官、今も囚われている皆に代わって、改めてお礼を申し上げます」
エミリーは軽く頭を下げた。その口調は真摯で誠実だった。
そのわずかな動きが首の傷を引きつらせ、エミリーは一瞬眉をひそめたが、それ以上は表情を崩さなかった。
彼女が息の詰まるような牢獄から救出されたばかりだとは、誰の目にもわからなかっただろう。
チャールズは彼女を見下ろした。
彼にとって、感謝の言葉など必要なかった。
犯罪者を排除し、罪無き人々の命を救うこと――それこそが彼の追い求めるものなのだ。
あれほど非人道的な拷問に耐え抜いてきたというのに、エミリーはこれほどまでに純粋な心を保ち続けている。
チャールズは片眉を上げ、感心したように温かな眼差しを向けた。
周囲を取り囲む招待客たちは、もはやこの状況をどう受け止めればいいのかわからなくなっていた。ひと悶着あるだろうと野次馬根性で集まってきた彼らだったが、チャールズの予期せぬ登場によって空気が一変してしまったのだ。
しかも、彼は明らかにエミリーの味方だった。
チャールズが彼女の身元を保証した以上、これ以上エミリーの評判を疑い立てることは、ハワード家の御曹司に逆らうも同然である。
彼らもそこまで愚かではない。人々は次第に後ずさりしていった。
騒ぎがようやく収まり、エミリーは少しだけ息をつくことができた。ドレスの汚れも気に留めず、彼女は再びチャールズに向き直った。
今度の彼女の声には、切迫した響きがあった。
「ハワード捜査官、あの凶悪犯たちが野放しになっている時間が長引けば長引くほど、被害者たちの危険が増してしまいます」
「一刻も早く出発するべきです」
エミリーの感情は高ぶっていた。日の当たらない場所に閉じ込められる絶望感や、毎日のように続く拷問の苦しみを、彼女は誰よりも知っているのだ。
今すぐにでもあの人たちを助け出したかった。
チャールズは少しだけ思案すると、頷いて自分の車へと歩き出した。エミリーもそれに続こうと歩みを進めた。
二人が最初の一歩を踏み出したその時、静寂を切り裂くように鋭い女の声が響いた。
「エミリー、あなたって本当に気が利かないのね」とローラが叫んだ。
エミリーは思わず立ち止まった。
「ハワード捜査官はあなたの命の恩人よ。それはつまり、ウィンザー家にとっても恩人だということじゃない。私たちの大恩人にお茶の一杯も出さずに帰してしまうなんて、どういうつもり?」
ローラは愛想の良い笑みを浮かべながらウェインの元へ歩み寄り、甘えるようなしぐさで彼の腕を揺さぶった。
「ねえ、お父様。お父様はいつも私たち子供に、きちんとした礼儀作法を教えてくださったわ。エミリーは一年も家を離れていたからマナーを忘れてしまったのかもしれないけれど、私たちが礼儀を欠くわけにはいかないわよね」
彼女はウェインに意味ありげな視線を送った。
ウェインは即座にその意図を察した。
チャールズのような人物とは滅多にお目にかかれるものではない。これは彼との関係を築く絶好の機会なのだ。
チャールズに気に入られて、損をすることなどあろうはずがなかった。
ローラはいつだって、先を見据えて動いている。
ウェインの目が爛々と輝き、数歩後ろに立つエミリーへと視線が移った。その表情には、隠しきれない嫌悪感が一瞬よぎった。
エミリーはチャールズにすり寄ることに必死で、家族がコネを作るための機会を全く提供しようとしないではないか。
『なんて役立たずな娘だ! 家族のために好機を作ろうとするローラとは違い、厄介事を引き起こすことしかできないとは』
「ハワード巡査、ローラの言う通りです。エミリーの家族として、娘の命を救っていただいた恩人にきちんとお礼を申し上げる機会をいただきたいのです。エミリーは本当に気が利かなくて、あなたを家にお招きすることすら思いつかないようですから」
ウェインは揉み手をするようにへつらいながら進み出た。その後ろにはビアンカとローラがぴったりと続いている。
「それに、エミリーは誘拐され、どんな虐待や拷問を受けたかもわかりません。親であれば誰だって胸が張り裂ける思いです。妻と私はこの一年、娘の無事の帰還を祈り続けてまいりました。ハワード巡査、こうして戻ってきたのも、すべてあなたのおかげなのです」
ウェインはわざとらしく涙を拭うふりをして、深くため息をついてみせた。
ローラは同情するようにウェインを見つめ、悲痛な声で言った。「ハワード巡査、私たちに他意はありません。ただ、きちんとお礼の気持ちを表したいだけなのです」
そう言って、彼女は赤く腫らした目でチャールズを見上げた。その哀れを誘う姿は、誰もが同情を寄せずにはいられないものだった。
他の誰かであれば、彼女のこの演技に完全に騙されていただろう。
エミリーはちらりと視線を向け、無意識に唇を引きつらせた。
以前の彼女なら、ローラが心から恩人に感謝したがっていると間違いなく信じ込んでいただろう。
だが今となっては、ローラのその白々しい態度をどうしたって信じる気にはなれなかった。
「ローラは本当にしっかりしているな。妹なのに、命の恩人への感謝を忘れないように気を配っている」
「正直言って、ローラの方がよっぽど姉らしく振る舞っているよ。それに比べてエミリーは……」
その言葉の裏にある意味は、誰の耳にも明らかだった。
エミリーは体の脇で手を握りしめ、そしてまた開き、冷たい笑みをこぼした。
ローラの小芝居は実に見事なものだった。
ほんの数言で、彼女はまんまとエミリーを再び非難の的へと引きずり戻してしまったのだ。
客たちのざわめきは決して大きくはなかったが、ひそやかなその囁き声はかえって耳障りだった。チャールズはあからさまに苛立ちの表情を浮かべて顔をしかめ、車のドアハンドルに軽く手を置いた。
彼は振り返って彼らを見据えた。その不快感は隠しようもなかった。
「あんたたちがそのご機嫌取りに費やすのと同じだけの労力を、まともに働くことにつぎ込んでいれば、ウィンザー家がこの街で名を上げるのに何十年もかかることはなかっただろうな」
彼は言葉を切った。その声に宿る生来の鋭さが空気を切り裂き、居心地の悪い沈黙をもたらした。
その若さにもかかわらず、チャールズは数十年の経験を持つビジネス界の重鎮たちをも凌駕するほどの威厳を放っていた。
「お茶を飲んでいけだと? そんなくだらないことに無駄にする時間はない」
それ以上は一言も発さず、彼は手際よく運転席のドアを開けて乗り込み、拒絶を示すようにバンとドアを閉めた。
エミリーはそこに立ったまま、車の窓越しにチャールズの鋭く魅力的な目と視線を合わせた。彼はわずかに首を傾げ、彼女に乗るように促した。
エミリーはもうためらうことなく頷き、車に乗り込んだ。
エンジンがかかった。ローラは車から少し離れた場所に立ち尽くし、目の前で繰り広げられた光景を呆然と見つめていた。
今しがた耳にした言葉と目の当たりにした出来事が、彼女には到底信じられなかった。
チャールズは彼女を一瞥だにせず、ウィンザー家の屋敷に滞在することすら時間の無駄だと言い放ったのだ。
ローラは強く唇を噛みしめ、握りしめた拳の爪が手のひらに鋭い痛みを走らせた。
彼女はウィンザー家の次女なのだ。これまで誰一人として、これほどあからさまに彼女を無視する者などいなかった!
ましてやこれほど大勢の人が見ている前で、チャールズは彼女の顔を丸潰れにし、事実上、皆の笑い者にしたも同然だった。
ローラは穴があったら入りたいほどの羞恥に苛まれた。
この事態に至り、客たちもこれ以上見世物を眺め続けるのは気まずくなり、それぞれ自分の席へと戻っていった。
だがローラはそこに立ち尽くしたまま、マイバッハの走り去った方向を睨みつけ、ギリギリと歯ぎしりをした。
階段の上では、ルーカスが消えゆく二人の姿を見つめていた。彼の胸の奥で、奇妙な感情がじわじわと広がっていった。
